車に興味のある方の中には、自動車整備士という仕事に就いてみたいと思った経験がある方も多いと思います。
しかし、自動車の整備には専門的な知識や技術が必要というイメージがあったり、いわゆるブルーカラーで待遇が良くないイメージがあったりと、実際に働くとなるとハードルを感じてしまうかもしれません。
この記事では、自動車整備士が気になるけど不安を感じているという方向けに、次のポイントで包括的に解説しています。
この記事で、自動車整備士の仕事への不安を解消し、一歩踏み出しましょう!
自動車整備士の仕事内容
自動車整備士とは、簡単に言うと車の修理やメンテナンス、点検などを行う職業です。
具体的な仕事内容には次のようなものがあります。
点検整備
車を持っている方ならご存知の通り、車には車検や日常点検などの定期点検が必要になります。
この定期点検が自動車整備士の主な仕事のひとつです。具体的な内容は以下の通りです。
- その他各種部品の損傷・汚れ・劣化・緩みの有無の点検
- ハンドル操作が正常に行えるか
- ブレーキが正常にかかるか(ブレーキのきき具合、ブレーキディスクやブレーキドラムの劣化の点検)
分解整備
点検整備などの際に異常が発見された場合は、自動車のパーツを分解してさらなる点検や修理を行うことになります。
特にエンジンやブレーキなどの分解整備は高い技術が必要であり、1級・2級の自動車整備士の資格を持つ人だけが行うことができます。
鈑金塗装
車体についたキズやへこみを直したり、塗装を塗り直したりするのも自動車整備士の仕事のひとつです。
鈑金とは、自動車のパネルについたキズやへこみを修理する作業で、主に次の3種類があります。
- 外板鈑金:車体の外側のパネルを叩いたり引っ張ったりして修理する
- フレーム修正、内板骨格修正:車体の骨格部分を修理する
- 取り替え:修復不可能な部分のパネルを交換する
また、鈑金が終わった後は次のような流れで塗装を行います。
- 下地:表面を平らにして塗装の下準備をする
- 塗装:塗装を塗り直す
- 磨き:塗料の凹凸やごみを除去する
緊急整備
車の故障時やトラブル時に行う緊急の整備です。
現場で迅速に作業を行うことが求められる場合が多く、正確かつ速く作業を行うスキルが必要になります。
お客様への説明
点検の結果や故障の原因、修理の内容などを、専門家ではないお客様にわかりやすく説明するのも自動車整備士の仕事です。
突然の故障などでは、どのような異常があったのか分からず不安に思っているお客様も多く、しっかり理解してもらえるような説明をすることが大切になります。
また、トラブルや故障の原因が考えられる場合、今後のためにアドバイスを行うこともあります。
自動車整備士の就職先
自動車整備士の就職先には、大きく分けて自動車ディーラーと、民間の二種類があります。
どちらで働くかによって、仕事内容や待遇、キャリアプランなどに違いが出てきます。
ここでは、ディーラーと民間それぞれについて、簡単に解説していきます。
ディーラー
自動車ディーラーとは、特定の自動車メーカーと特約店契約をしている販売店のことを指します。
そのため、自動車整備士としての仕事以外に、販売業務なども行うことになります。
また、ディーラーでは契約先の自動車メーカーの自動車の点検や修理を行うのが主な仕事になるのも特徴のひとつです。
具体的な業務内容は次のようなものが中心になります。
- 自動車を販売した顧客への点検整備・車検などのアフターサービス
- リコール時の修理
- ディーラーオプションの取り付け
民間
民間の整備工場では、特定のメーカーと契約しているわけではないので、様々なメーカーの自動車を扱うことになります。
整備の内容も様々で、工場によって実施できる業務や、メインのサービスとしている業務が異なります。
一般的に小規模な工場ほど、整備以外の業務も幅広くなる場合が多く、自動車整備に関する知識以外に、接客や営業能力が求められることもあるようです。
ディーラーと民間の違い
特定の自動車メーカーと契約しているディーラーでは、扱う車の種類が限られているため、そのメーカーの車の修理に必要な道具や環境が整っています。
また、比較的規模が大きいため、民間と比べて待遇が良かったり、行う業務の範囲がはっきりしている傾向にあります。
以上のことから、ディーラーの方が業務がしやすい傾向にあるでしょう。
しかし、メーカーを問わず様々な車を扱いたい方には、少し物足りなく感じるかもしれません。
自動車整備士として幅広い業務に携わりたい場合、自分にあった民間の工場を探してみると良いでしょう。
自動車整備士の1日
自動車整備士としての働き方をさらにイメージしやすくするため、ここではディーラーで働く自動車整備士の1日の例をご紹介します。
8時 | 出勤 開店まで作業場の掃除などを行う。 |
9時 | 全体の朝礼の後、整備士のミーティングで今日の業務を確認する。 |
10時 | 業務開始 作業指示書に応じて整備を進める。 |
12時 | 休憩 |
13時 | 午後の業務開始 |
17時 | ミーティング 作業の進捗や問題を共有する。 |
18時 | 退勤 |
自動車整備士のやりがいと魅力
ここまでで、自動車整備士の具体的な仕事内容や働き方を紹介してきましたが、実際に現場で働く人は、その仕事にどのようなやりがいや魅力を感じているのでしょうか。
よく挙げられる自動車整備士のやりがいや魅力には次のようなものがあります。
スキルアップしていく実感ができる
この後で紹介しますが、自動車整備士には難易度の異なる資格が複数あります。
より難しい資格を取ると、それだけできる業務の幅が広がり、待遇がアップします。
自分のスキルが向上したことが、資格・業務内容・お給料などの目に見える形でわかるため、成長を実感しやすいと言えるでしょう。
お客様からの感謝の言葉
特に民間で働く場合などは、お客様と関わる機会も多々あります。
自分の車に愛着を持っている方は多いため、故障した車を修理した際などにはとても感謝してもらえます。
誰かのためになっているということが実感しやすい仕事です。
マイカーの整備がしやすい
自動車整備士に興味を持つ方の中には、もともと車が好きで、自分の車にも愛着を持っているという方も多いと思います。
自動車整備士になれば、自分の車を自分の手でメンテナンスできるというのも大きな魅力のひとつです。
職場によっては、職場の作業場で自分の車をメンテナンスさせてくれたり、車のパーツを社員割引で購入できたりする場合もあります。
無資格でも自動車整備の仕事はできる?
自動車整備の仕事のうち、鈑金塗装、オイル交換・タイヤ交換などには資格は必要ありません。
しかし、点検整備や分解整備を行うには資格が必須であり、自動車整備士の資格は不可欠と言って良いでしょう。
資格を取得することで、自動車整備士としてさらに専門的な業務に携わることができます。
ここでは、自動車整備士の主な資格について紹介していきます。
3級自動車整備士
3級自動車整備士は、多くの人が自動車整備士としてのキャリアを始める際に取得を目指す国家資格です。
ただし、この資格を取得するには、次の受験資格のいずれかを満たす必要があります。
- 自動車整備系の高校・専門学校で3級整備士課程を卒業している
- 機械工学科や職業訓練を修了し、自動車整備工場で半年以上の実務経験がある
- 自動車整備工場で1年以上の実務経験がある
未経験から資格の取得を目指す場合は、まずは自動車整備工場で実務経験を積みましょう。
その後、学科試験と実技試験に合格することで、資格を取得できます。
また、学科試験合格後に養成施設に通うと、実技試験が2年間免除となります。
3級自動車整備士の種類
3級自動車整備士とは自動車整備に関わる資格の総称で、その中に次のような種類があります。
- 3級自動車シャシ整備士:二輪を除く自動車のボディ・エンジンを除いたシャシ部分の基本的な整備ができる
- 3級自動車ガソリン・エンジン整備士:ガソリンエンジンの基本的な整備ができる
- 3級自動車ジーゼル・エンジン整備士:ジーゼルエンジンの基本的な整備ができる
- 3級二輪自動車整備士:オートバイや原付の基本的な整備ができる
これらはすべて取得する必要はなく、必要なものを選んで取得します。
いずれの資格も、上級資格者の指導のもとで基本業務を行う制限付きです。
3級では簡単な仕事が中心になるため、上級資格の取得を目指すことが重要です。
2級自動車整備士
自動車整備士として働いていくためには、少なくとも2級までは取得すべきと言われています。
2級自動車整備士にも、3級自動車整備士と同様に、シャシ、ガソリン・エンジン、ジーゼル・エンジン、二輪という種類があり、3級取得後に実務経験を積むと受験できます。
必要な実務経験の長さは、専門学校を卒業しているかどうかなどによって異なり、未経験から目指した場合は3年間です。
2級を取得すると、上級の資格取得者の監督は必要なくなり、分解整備などを含むほとんどの業務を行うことができるようになります。
1級自動車整備士
自動車整備士の仕事は、ほとんどが2級で対応可能です。
そのため、長年働いている人でも1級を持っている人は少ないです。
しかし、1級を取得すると、高度な業務に対応したり、他の整備士を指導できるため、現場で重宝されます。
1級自動車整備士の種類
- 1級小型自動車整備士:総重量8トン以下、最大積載量2トン未満、乗車定員11名以下の二輪を除く自動車の高度な整備を行うことができる
- 1級大型自動車整備士:バスやトレーラーなど、総重量8トン以上、最大積載量2トン以上、乗車定員11名以上の大型自動車の高度な整備を行うことができる
- 1級二輪自動車整備士:二輪自動車の高度な整備を行うことができる
ただし、取得可能な1級は「1級小型自動車整備士」のみで、二輪は2級二輪自動車整備士が実質的に最高難易度の資格となっています。
1級を取得するには、2級ジーゼル自動車またはガソリン自動車を取得し、3年以上の実務経験が必要です。
また、1級には部位ごとの分類がなく、重量や積載量の条件を満たせば、部位や種類によらずあらゆる整備を行うことができます。
特殊整備士
特殊整備士は、自動車整備士の資格で対象とされていない箇所を専門とする資格です。
一般的な整備業務に必須の資格ではありませんが、その箇所の専門家として就職や業務で有利になります。
例えば、国から「優良自動車整備事業者」に認定されるには、整備工場に特殊整備士の資格保有者が一定数いることが条件のひとつになっています。
また、資格は顧客の信頼にも繋がるため、これも取っておいて損はない資格と言えるでしょう。
受験資格は、専門学校卒業や最大2年の実務経験が条件です。
特殊整備士には、専門とする箇所別に次のような種類があります。
特殊整備士の種類
- 自動車電気装置整備士
バッテリー、電子制御装置、冷房装置などの電気装置部分の専門資格。
電気装置の整備は、2級整備士でも対応可能だが、ハイブリッド車や電気自動車の普及により、電子制御機能の専門性を持つ整備士が重宝されている。 - 自動車車体整備士
フレームやボディ部分の修理や整備、つまり鈑金塗装等の専門資格。
鈑金塗装は自動車整備士の資格を持っていなくても可能だが、経験や技術が必要になる仕事。
車の見た目に大きく関わってくる部分でもあるため、お客様としても関心が高い業務と言える。 - 自動車タイヤ整備士
タイヤの点検、修理、整備などの専門資格。
この資格は平成12年が最後の試験となっているため、現在は取得できない。
自動車整備士としてのキャリア形成
自動車整備士として長く働き続けることを考えると、そのキャリア形成をどうするかということも重要な問題になってきます。
自動車整備士のキャリアアップは、より上級の自動車整備士の資格を取ることが基本となる他、特定の役職に就くことも一つの道です。
ここでは、自動車整備士からキャリアアップできる次の役職について、内容とその役職に就く方法を解説します。
自動車整備主任者
自動車整備主任者とは、分解整備ができる認証工場や指定工場に必ず置かなければならない役職です。
分解整備ができるかどうかによって、工場で請け負うことのできる業務の幅は大きく変わってくるため、自動車整備の職場にとって非常に重要な役職と言えます。
自動車整備主任になるには
整備主任の役割は、分解整備が国の保安基準を満たしているか確認・管理することであり、分解整備に対する基本的な知識が必要になります。
そのため、自動車整備主任に任命されるには、2級以上の自動車整備士の資格が必要です。
また、エンジン部分の分解整備を行うには、2級自動車整備士の資格の中でも、シャシのみの場合は不可になっています。
さらに、自動車整備主任になるには職場から任命される必要があり、誰でもすぐになれるわけではありません。
職場から任命された後は、自動車整備主任者研修を受けることで、自動車整備主任になることができます。
この研修は一度受けたら終わりになるのではなく、年度につき1回ずつ講習を再受講することになります。
自動車検査員
自動車の修理や点検などの整備が行われた後、それが正しく行われたか、国の基準を満たしているかなどを確かめる検査が行われます。
整備から検査までを1人で行うのはリスクが大きいため、整備をする人と検査を行う人は別にしなければならないとされています。
この検査を行うのが自動車検査員です。
自動車検査員は車検を行うことができる「指定整備工場」に必ず配置しなければならないため、整備士よりも待遇が良くなる傾向にあります。
自動車整備士としてキャリアを積んでいくことを考えている方は、取得して損はないでしょう。
自動車検査員になるには
自動車検査員になるには、自動車検査員の資格が必要になります。資格試験を受験するには、次の3つの条件を全て満たしている必要があります。
- 整備主任者としての1年以上の実務経験がある
- 直近の整備主任者研修を受講している
- 勤務先が指定工場である
つまり、自動車検査員になるにはまず整備主任者として働く必要があります。
整備主任者になるには自動車整備士の経験と資格が必要になるため、自動車整備士だけが目指せる仕事となっています。
自動車検査員の資格取得までの流れは以下の通りです。
- 自動車検査員講習を受講する
- 自動車検査員教習試問(試験)を受ける
自動車整備士に求められるスキルや向いている人とは
自動車整備士は資格が必要とされる専門職であり、自動車に関する知識や技術が求められます。
そんな自動車整備士に向いているのは、一体どんな人なのでしょうか。
自動車整備士に求められるスキルや向いている人の特徴としてよく挙げられるのは次の4つです。
集中力がある
自動車の整備は、失敗が許されない作業も多くあります。
長時間黙々と地道に作業していても、正確に作業を続けることができる集中力が必要と言えます。
手先が器用
自動車の整備には細かい作業も多いため、それに対応できる手先の器用さも重要な要素です。
重大なミスを避けるためにも、集中力に加えて繊細な作業を正確に行う技術が必要です。
向上心・学習能力がある
自動車に関する技術は、昔から進化を続けてきました。
自動車整備士として働き続けるためには、その進化に対応できるように学び続ける力が必要です。
また、上でも書いた通り、最近の自動車は自動運転や電気自動車のような、最新のシステムが搭載されるようになるなど、その技術はより高度になり、進化の速度もますます上がっています。
今後の自動車整備士には、そのような新たな技術にも柔軟に対応していく向上心や学習能力がよりいっそう求められるようになるでしょう。
車が好き
もともと自動車が好きな人であれば、長時間の整備の仕事や、最新の自動車について学ぶことも苦にはならないでしょう。
自動車の専門家である自動車整備士として、車が好きということも才能の一つと言えるかもしれません。
自動車整備士の給料と待遇
自動車整備士の仕事はいわゆるブルーカラーとされ、給料は低いというイメージがある方も多いと思います。
いくら自動車好きにとって夢のある仕事でも、生活や家族のことを考えると、給料のことは心配ですよね。
ここでは、一般的な自動車整備士の給料や待遇、昇給する方法について解説します。
自動車整備士の平均給料
日本自動車整備士振興会連合会の2022年度の調査によると、自動車整備士の年収は平均して約400万円ほどのようです。
ここからボーナスや税金を考慮すると、毎月の手取りは約23万円ほどと考えられます。
自動車整備士の給料や待遇は改善されている
しかし、現在は自動車整備士の人手不足が問題になっています。
そのため、少しでも働き手を増やすべく、給料や待遇は改善されている傾向にあります。
実際、自動車整備士の平均年収は、2018年度は約390万円であり、たった5年ほどで10万円ほどアップしています。
自動車整備士の人手不足は今後もしばらく続くと考えられるため、給料や待遇も改善されていくと見て良いでしょう。
ディーラーの方が給料は良い傾向
また、民間とディーラーを比べると、給料はディーラーの方が良い傾向にあります。
それぞれの2022年度の平均年収を見ると、民間で働く自動車整備士の場合は約370万円であるのに対し、ディーラーで働く自動車整備士は約480万円です。
こうして見ると、ディーラーで働く場合は、普通のサラリーマンよりもむしろ年収は高いことが分かります。
自動車整備士として働いてしっかり稼ぎたい場合は、ディーラーへの就職を目指すと良いでしょう。
自動車整備士が収入アップするには
特に民間で働く自動車整備士の場合、給料は一般的に見て高いとは言えません。
しかし、それはあくまで全体の平均の話。
自動車整備士として働き始めても、工夫や努力次第で収入アップを見込めます。
最後に、自動車整備士の方が収入を上げる方法を解説していきます。
①資格を取る
より上級の自動車整備士資格を取ることで、できる業務の幅が広がり、待遇の改善も見込めます。
今後の転職やキャリア形成にとっても役立つため、収入を上げたい自動車整備士の方が最初に検討すべきことと言えます。
また、ディーラーによっては自社に独自の資格を設定している場合があります。
資格の取得によってできる業務が増えて待遇が良くなったり、昇進したりと、様々なメリットがあります。
②転職する
上でも見た通り、一般的に民間と比べてディーラーの方が収入が高い傾向にあります。
民間で働き始めたものの、収入が不十分だと感じる場合は、ディーラーに転職すると良いでしょう。
また、民間の工場は業務内容や会社の規模、待遇などにばらつきが大きいため、今よりも待遇の良い民間の工場を探して転職するというのも一つの手です。
③ステップアップする
上でも紹介した通り、自動車整備主任者や自動車検査員などの役職につくことで、収入アップや待遇の改善が見込めます。
また、自動車整備士として現場で働くことにこだわりがない場合は、お客様の対応を行うサービスフロントや工場長になるという道もあります。
サービスフロントは接客が主な仕事となりますが、お客様に点検や修理について正しく説明するためには、自動車整備についての知識が不可欠になります。
また、工場長も現場のことを熟知していることが求められます。
そのため、どちらも自動車整備士からのキャリアアップとして就くことが多い仕事です。
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