
1990年代から2000年代初頭の経済バブル崩壊後は、転職先での信頼性や適応力に懸念が生じるため、離職率が高い業界からの転職は不利とされてました。
しかし、転職市場の変化により離職率が高い業界からの転職に対する意識が変化しています。
本記事では、離職率が高い業界からの転職について、データを踏まえながら解説します。
この記事を参考に、転職市場のトレンドを把握し、転職活動を成功させましょう。

離職率が高い業界の特徴【7つ】

厚生労働省が実施した令和2年転職者実態調査によると、自己都合による離職の主な理由でとくに多いものは、労働条件や仕事内容、待遇面についてでした。
離職理由 | 労働条件(賃金以外)がよくなかったから | 満足のいく仕事内容でなかったから | 賃金が低かったから | 会社の将来に不安を感じたから | 人間関係がうまくいかなかったから |
割合(%) | 28.2 | 26.0 | 23.8 | 23.3 | 23.0 |
ここからは、さまざまな離職理由の中から離職率が高い業界でよく見られる離職理由を7つ紹介します。
ワークライフバランスが取りづらい
離職率が高い企業が抱えている課題のひとつは、過重労働や労働環境です。
とくに、ワークライフバランスの確保が難しいことが問題視されています。
ワークライフバランスの確保が難しくなる主な原因は、以下のとおりです。
ワークライフバランスの確保が難しくなる主な原因
- 慢性的な人手不足
- 長時間労働が常識化している
- 業務量が多い
- 突発的に発生する業務が多い
- 勤務時間が不規則
社員の勤務時間が長くなると、私生活に支障をきたします。
その結果、離職者が増えます。
給与水準が低い
給与水準が低いことも離職率が高くなる要因のひとつです。
離職率が高い業界で給与水準が低い主な原因は、以下のとおりです。
離職率が高い業界で給与水準が低い主な原因
- 利益率が低い
- 業務に人手を多く必要とする
- スキルの希少性が低く評価される
- 新人教育にコストがかかる
- 国の予算や制度に賃金が大きく依存している
低賃金での長時間労働や福利厚生の不足が、社員のモチベーションや生活の質を低下させます。
給与水準が低いと、他の高給与を提供する企業への転職を促進します。
肉体的・精神的な負荷が高い
離職率が高い企業は、肉体的・精神的な負荷が大きい傾向があります。
肉体的・精神的な負荷が大きくなる主な原因は、以下のとおりです。
肉体的・精神的な負荷が大きくなる主な原因
- 長時間労働
- 不規則な勤務時間
- 人手不足
- ミスの許されない緊張感
- ノルマ達成へのプレッシャー
- 努力や成果が正当に認められない
長期間の負荷が続くと、健康問題や仕事への不満が溜まり、離職につながります。
顧客対応ストレスが大きい
顧客対応のストレスが大きいことも離職率を上げる一因です。
とくに、サービス業や販売業では、クレーム対応や厳しい顧客要求が日常的にあり、社員に精神的な負担をかけます。
顧客対応によるストレスが大きくなる主な原因は、以下のとおりです。
顧客対応によるストレスが大きくなる主な原因
- 顧客からの過度な要求や感情的なクレームに日常的にさらされる
- 常に笑顔や丁寧な対応を求められる
- 失敗が許されないプレッシャー
- 顧客対応の時間が長い
顧客対応ストレスが積み重なると、仕事への満足度が低下し、最終的には離職を引き起こします。
職場の人間関係に問題が起こりやすい
離職率が高い企業では、職場の人間関係に問題が生じやすい傾向があります。
職場の人間関係に問題が起こりやすい主な原因は、以下のとおりです。
職場の人間関係に問題が起こりやすい主な原因
- 人の入れ替わりが激しい
- コミュニケーション不足
- 管理職のマネジメント力不足
- 業務負荷や不満が蓄積されている
上記のような要因が組み合わさることで、離職率の高い職場では人間関係のトラブルが常態化し、離職を加速させる悪循環が生まれます。
景気や季節に左右されやすい
離職率が高い企業は、景気や季節の変動に影響されやすいことがあります。
とくに、販売業やサービス業などでは、景気の悪化や季節的な需要の変動により、業績が不安定になりやすい傾向があります。
景気や季節の不安定さが従業員の仕事への不満や不安を引き起こし、結果として離職が増えてしまうでしょう。
評価制度が不透明または不公平
離職率が高い企業では、評価制度が不透明または不公平であることが問題となることがあります。
評価基準が明確でない、または一貫性が欠けていると、社員は自分の成果が正当に評価されていないと感じ、モチベーションが低下します。
評価制度が不透明または不公平への不満が蓄積されることで、離職意欲が高まり、結果的に離職率が上昇するでしょう。
離職率が高い業界とは?

厚生労働省が実施した令和4年雇用動向調査によると、離職率が高い業界は、以下のとおりです。
順位 | 業界 | 離職率(%) |
1 | 宿泊業・飲食サービス業 | 26.8 |
2 | 生活関連サービス業・娯楽業 | 18.7 |
3 | 教育・学習支援業 | 15.2 |
4 | 医療・福祉 | 15.3 |
5 | 建設業 | 14.5 |
6 | 小売業 | 13.8 |
7 | コールセンター業界 | 13.5 |
8 | 運輸・物流業界 | 12.9 |
9 | 広告・出版・マスコミ業界 | 12.5 |
10 | IT業界 | 12.0 |
参照元:令和4年雇用動向調査|厚生労働省
ここからは、離職率が高いとされる理由を業界別に解説します。
宿泊業・飲食サービス業
宿泊業・飲食サービス業では、長時間労働や不規則な勤務、クレーム対応などの精神的・肉体的負担が大きく、離職率が高くなりやすい傾向があります。
加えて、給与水準が比較的低く、人手不足による業務の偏りもあります。
働き続けることに対する不安や不満が蓄積しやすいことも、離職率が高い要因のひとつです。
生活関連サービス業・娯楽業
生活関連サービス業・娯楽業では、接客業務が中心でクレーム対応や感情労働が多く、精神的負担が大きくなりやすい傾向があります。
また、土日祝や夜間勤務が多く、生活リズムが不規則になりやすいことも離職につながります。
さらに、給与水準の低さや将来性への不安から、長期的な勤務が難しいと感じる人が多いことも離職率が高い要因のひとつです。
教育・学習支援業
教育・学習支援業では、授業準備や保護者対応、行事運営など業務が多岐にわたります。
担当業務が広範囲に及ぶことで、長時間労働になりやすいことが離職率の高さに影響しています。
加えて、感情労働の側面が強く、精神的な負担も大きくなるでしょう。
評価が曖昧なことや待遇の割に責任が重いことも、不満や疲弊を招き、離職につながる要因となります。
医療・福祉業
医療・福祉業では、利用者の命や生活に関わる責任の重さに加え、夜勤やシフト勤務による不規則な生活が心身に大きな負担を与えます。
さらに、人手不足による過重労働や感情労働の多さ、そして給与水準や労働環境が期待に見合わないこともあります。
このような批判や不満が積み重なることで、離職率が高まってしまうのです。
建設業
建設業では、屋外での重労働や危険を伴う作業が多く、体力的負担が大きいことが離職の一因です。
さらに、天候や季節に左右される不安定な労働環境や、長時間労働、休日の少なさもワークライフバランスを崩しやすい要素です。
若手の定着が難しく、高齢化も進んでいるため、離職率が高まりやすくなります。
小売業
小売業では、長時間労働や不規則なシフト勤務が多く、ワークライフバランスが取りづらいことが離職率の原因です。
加えて、接客業務による精神的な負担やクレーム対応、また低い給与水準や昇進機会の不足も不満を生み、離職を促進します。
さらに、人手不足が慢性化しているため、業務負担が増え、さらに離職が加速する悪循環が生じます。
コールセンター業界
コールセンター業界では、繰り返しの電話対応やクレーム処理が精神的負担を大きくし、ストレスが溜まりやすくなります。
加えて、業務が単調でやりがいを感じにくく、評価制度が不透明な場合もあります。
さらに、低い給与水準やシフト勤務、不規則な労働時間も離職を引き起こす要因です。
運輸・物流業界
運輸・物流業界では、長時間勤務や不規則なシフト、過酷な労働環境が離職率を高くします。
とくに、荷物の積み下ろしや長距離運転などの肉体的負担が大きく、事故や安全面でのプレッシャーもあります。
さらに、給与水準や待遇が低く、働き続けるモチベーションが低下することも離職率が高くなる要因のひとつです。
広告・出版・マスコミ業界
広告・出版・マスコミ業界では、長時間労働や厳しい納期、常にクリエイティブな成果を求められるプレッシャーが大きなストレスとなります。
さらに、仕事の不安定さや評価の不透明さ、低い給与水準も離職の要因です。
また、業界特有の競争の激しさや、労働環境の改善が遅れていることも、定着率を低くしています。
IT業界
IT業界では、長時間の残業や納期に追われる業務が多く、過度なストレスがかかりやすい傾向があります。
とくに、プロジェクトの進行におけるプレッシャーや、急速な技術の変化についていかなければならないことも、精神的負担が大きくなる要因です。
また、労働環境や待遇が十分でないと、業界特有の人手不足も影響し、離職率が高くなります。
離職率が高い業界からの転職は不利なのか?

1990年代後半から2000年代初頭の景気後退期に、企業の競争力や業績が重視されるようになりました。
その影響で、転職市場では安定した雇用を重視する傾向が強まり、離職率が高い業界が転職に不利とされるようになりました。
しかし、離職率が高い業界出身者が転職市場で不利になるかどうかは、一概には言えません。
実際には、業界特性や個人のスキル・経験、転職理由の伝え方などによって評価がわかれます。
具体的には、以下のようなスキルや経験にもとづき評価されます。
離職率よりも重視されるスキル・経験
- 実務経験
- ポータブルスキル
- テクニカルスキル
実務経験
転職市場では、即戦力として活躍できる能力が求められます。
実務経験を持つことで、業界や職務に対する理解が深く、仕事の進め方や問題解決能力を既に身につけていると評価されます。
また、企業は採用後の教育コストを抑えたいと考えるため、実務経験があるとその分即戦力として期待されやすくなるでしょう。
ポータブルスキル
ポータブルスキルとは、特定の職種や業界に依存せず、さまざまな仕事で活かせる汎用的なスキルのことです。
コミュニケーション能力やプロジェクト管理スキル、問題解決力などのポータブルスキルは、異なる業界でも即戦力として役立ちます。
そのため、転職先でも高く評価されます。
また、ポータブルスキルが高いと転職時に柔軟性や適応力があると判断されるため、採用される可能性が高まるでしょう。
資格を活用してポータブルスキルをアピールしたい方は、以下のような資格を取得してみてください。

MOS(Microsoft Office Specialist)
MOS(Microsoft Office Specialist)は、Microsoft Office製品(Word、Excel、PowerPointなど)の使用スキルを証明する資格です。
Microsoftが運営しており、業務で必要なOfficeスキルを習得し、実務に活かせる能力を証明できます。

TOEIC
TOEIC(Test of English for International Communication)は、英語のコミュニケーション能力を測定する試験です。
一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)が運営しています。
主に、ビジネス環境での英語力を評価するために広く利用されています。

コミュニケーション検定
コミュニケーション検定は、効果的なコミュニケーション能力を測定する資格です。
日本コミュニケーション能力認定協会(JCA)が運営しています。
対人スキルや話し方、聞き方など、日常生活やビジネスで役立つコミュニケーション力を証明できます。

PMP(Project Management Professional)
PMP(Project Management Professional)は、プロジェクトマネジメントの専門的な知識とスキルを証明する資格です。
米国のプロジェクトマネジメント協会(PMI)が運営しています。
プロジェクトの計画、実行、監視、終了までの全プロセスにおける能力を認定しています。
テクニカルスキル
テクニカルスキルとは、専門的な知識や技術、ツールを使いこなす能力のことです。
転職市場では、特定の職務において専門的な知識や技術が欠かせません。
とくに、ITやエンジニアリング、デザインなどの分野では、テクニカルスキルを持つことで即戦力として即座に成果を上げやすいと見なされます。
また、企業はテクニカルスキルを活かして業務の効率化や品質向上を図るため、テクニカルスキルが高い人材は、企業からの評価が高くなります。
資格を活用してテクニカルスキルをアピールしたい方は、以下のような資格を取得してみてください。

Cisco CCNA((Cisco Certified Network Associate)
Cisco CCNA(Cisco Certified Network Associate)は、ネットワーク技術に関する基礎的な知識とスキルを証明する資格です。
Cisco Systemsが運営しており、ネットワークの設計、構築、運用、トラブルシューティング能力を評価します。

ACE(Adobe Certified Expert)
ACE(Adobe Certified Expert)は、Adobe製品(Photoshop、Illustrator、InDesignなど)の高度な使用スキルを証明する資格です。
Adobeが運営しています。
プロフェッショナルレベルの技術を習得し、業務での実践力を証明するために役立ちます。

施工管理技士
施工管理技士は、建設工事の現場管理に必要な知識と技術を証明する資格です。
一般財団法人建設業振興基金が運営しています。
建設業界での施工計画、工程管理、品質管理、安全管理などの実務能力を認定しています。

建設業経理士
建設業経理士は、建設業に特化した経理・財務の専門知識を証明する資格です。
一般財団法人建設業振興基金が運営しています。
建設業界の特有の会計処理や税務、工事原価管理に関するスキルを認定しています。
選考で不利にならないためのポイント【5つ】

ここからは、転職の選考で不利にならないためにやるべきことを5つ紹介します。
自身の強みや志向を明確にする
| 転職の選考で採用担当に好印象を与えるために、自身の強みや志向を明確にしましょう。
自身の強みや志向を明確にすることで、応募者と企業とのマッチ度が伝わりやすくなり、選考での印象が良くなります。
また、過去の経験や価値観を整理することで、面接時の受け答えにも一貫性が生まれ、説得力が高まります。
自身の強みや志向を面接でアピールしたい方は、こちらの記事をご覧ください。

具体的な成果やプロジェクト経験を数値や事例でアピールする
| 転職の選考で採用担当に好印象を与えるために、具体的な成果やプロジェクト経験を数値や事例でアピールしましょう。
具体的な成果やプロジェクト経験を数値や事例でアピールすることで、実績の信頼性が高まります。
また、成果を可視化することで説得力が増し、採用担当者の印象にも残りやすくなります。
転職理由をポジティブに伝える
| 転職の選考で採用担当に好印象を与えるために、転職理由をポジティブに伝えましょう。
転職理由をポジティブに伝えることで、前向きな姿勢や成長意欲をアピールできます。
また、前向きな表現に言い換えることで、信頼感や誠実さが伝わり、不利な経歴も納得感のある形で説明できます。

具体例①
現職では基礎的な業務スキルを習得できましたが、より幅広い分野や高度な業務に挑戦し、キャリアの成長につなげたいと考えています。
御社であれば新たなチャレンジができると感じ、志望しました。

具体例②
現職では一定の成果を上げてきましたが、より主体的に業務に取り組み、チームでの連携を通じて大きな成果を生み出せる環境を求めています。
御社の社風に強く惹かれ、応募いたしました。
応募先企業の理解を深める
| 転職の選考で採用担当に好印象を与えるために、応募先企業の理解を深めましょう。
応募先企業への理解を深めることで、志望動機に具体性が生まれ、入社への熱意が伝わります。
また、企業理念や事業内容を踏まえた自己PRができるため、マッチ度の高い人材として評価されやすくなります。
企業理解に必要な情報の収集方法について知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

転職エージェントを活用する
| 転職の選考で採用担当に好印象を与えるために、転職エージェントを活用しましょう。
転職エージェントを活用することで、自分の経歴や強みに合った求人の紹介や、書類・面接対策のサポートを受けられます。
また、企業とのやり取りを代行してもらえるため、不安な点も事前に相談でき、選考を有利に進めやすくなります。

ーまとめー
自分に合った転職戦略を立てよう!

今回は、離職率が高い業界からの転職について解説しました。
離職率が高い業界の出身でも、転職は十分に可能です。
転職活動で重要なのは、これまでの働き方や経験をどう活かすかという視点です。
業界データも参考にしながら、自分に合った強みを軸に転職戦略を立てましょう!
まとめ
自分に合った転職戦略を立てよう!

今回は、離職率が高い業界からの転職について解説しました。
離職率が高い業界の出身でも、転職は十分に可能です。
転職活動で重要なのは、これまでの働き方や経験をどう活かすかという視点です。
業界データも参考にしながら、自分に合った強みを軸に転職戦略を立てましょう!